マッチを、いえ、拙著を、拙著を買ってください。
シュッ! なんとよく燃えること! オバサンはそのまわりに手をかざしました。
ほんとうに不思議なロウソクです! あたたかい火が現れました。その火で、『いつから私は対象外の女』が断裁&燃やされようとしています。
新しいマッチがこすられました。オバサンが光の中を見ますと、今度は『「ブス論」で読む源氏物語』が煌々と輝いています。だんだん体があたたまってきます。
オバサンはさらに新しいマッチを燃やしました。今度はこの上もなくきれいに平積みされた私の本が美しい緑の野原に並んでいて、その傍らにはシバがほほ笑んでいます。
またまた一本のマッチをこすりました。あたりがぱっと明るくなりました。その明るい光の中に、シバや猫どもと共に死んだおばあちゃんが…………。
私は足下に自分の本の在庫の山を見下ろしながら、シバや猫どもやおばあちゃんとともに、光と喜びにつつまれて、高く高くのぼってゆきました。そこにはもう、本が売れない哀しみも、おなかのすくことも、本の断裁にさらされるようなこわいこともありません。みんなして、文字のない、動物もヒトもいっしょくたのポポ手界に召されたのです。
ああ我ながら痛々しい……。
『大原さんちのだんなさん』はこれを見れば必ず泣けるという「号泣ボックス」を用意して、泣いてストレス解消していたというが、私はこれを見たら必ず笑えるというグッズを詰め込んだ「笑いボックス」でも用意すべきだ。そして笑って免疫力をupするの。
今日、散歩で品のいい六十くらいの女性が可愛い黒白の犬を連れていた。
「かわいいですね〜。いくつですか?」
ときくと、
「年も正確には分からないの。保健所で殺されそうになった犬なの」
と言う。
「いま、保健所でいちばん殺されている犬は、飼い主自らが捨ててくださいって言って捨てられた犬なの。行方不明の野良犬は殺されるまで四日くらい猶予があるんだけど、飼い主が連れてくるってことは探しに来る人はもういないってことでその日のうちか次の日にはすぐ殺されるの。この犬は、そういう犬をボランティアの人がもらい受けて、ネットで売りだしていたのを、娘が探してくれて。それもこんな犬でも審査が厳しいの。虐待するためにネットでペットをもらい受ける人もいるからなの。この犬なんか、いいって言ってから、引き取るまで一月かかったのよ。私が欲しいって言っても家族は反対していないのかとかそういうことも知りたいっていうんで、御家族が揃ってる日曜にと言って、わざわざうちにボランティアの人が見えて、それでね。私、以前、ゴールデンレトリバーを飼ってて死んでしまった時は哀しくてもう犬は飼うまいと思っていたんだけど、やっぱり飼いたくなって、どうせ飼うなら、捨てられた犬をと思って」
その品のいいオバサンは言っていた。
捨てる神あれば拾う神あり。って、そのまんまだけれど、その人の語り口があまり流暢で話上手なので、思わずじっと聞き入ってしまった。なんかどこかの宗教の支部長とか、PTAの幹部とか、区議とか、NPOの人みたいな雰囲気だった。
★大塚ひかり★