猫も羽<わ>で数えましょう(旧「大塚ひかりのポポ手日記」since2004)

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科学じいさん

 今まで猫婆さん、鳥じいさんなど、さまざまな年寄を紹介してきた(てほどのこともないか)。
 今回は科学じいさんである。
 このじいさんは以前にもこの日記に書いたことのあるタバコを吸うじいさん。本当はじいさんなどと言っては申し訳ないような感じの方で、心の中では「おじい様」とお慕いしているのだが、ここではじいさん。
 なんでこのじいさんが「科学」なのかというと、先日、夜七時頃、シバと散歩していたら、じいさんが雑種の犬と共に河辺にじっとたたずんでいる。犬の名はトパーズ。犬の誕生石からつけたそうで、そうと聞いて以来、このじいさんには何かを感じていたのだが、いつまで経っても河辺を動かないので、
「何を見ているんですか」
と聞いてみると、
「ほら、あれ見て」という。
 じいさんの指さすほうに目をやると、浅い川の水の中で、鳥のような頭と魚のようなヒレをもった物体が、一定のリズムで水面を出たり入ったりしている。
「あれ、カモじゃないですか?」
 私が言うと、
「カモならいつまでもあんなことはしない」
「じゃあサカナ?」
「動きは似ているが、サカナじゃない」
「じゃあ何ですか」
「何だか分からない。よく違法に輸入された生き物や、凶暴な亀なんかを最近、川に捨てる輩がいるそうだが、そういう類いじゃないかと思って三十分くらい見ているんだが、それにしては動きが変なんだ。なんだか気味が悪くてね」
 言われて、私も一緒になって観察していたが、その物体は一定の動きを繰り返すだけ。
「ゴミかなにかがひっかかったんじゃないですか」
と言って帰ろうとして、「待てよ」と思い、
「理科系でいらっしゃるんですか?」
と聞くと、
「うん。生物じゃなくて物理だけど」
 以来、私はこのじいさんを「科学じいさん」と呼ぶようになった。物理じいさんじゃ座りが悪いし、科学なら広範囲を含めると思ってそう命名したのだ。
 
 その科学じいさんに、二、三日前の夜七時頃、その時と同じ場所で会った。
「あれ以来、観察しているんですね?」
と言いつつ、川を見ると、あの奇妙な物体はすでにない。
「あれ、なくなっちゃったんですね」
「そう。五月三十一日の豪雨以来、ぱたりと見なくなった」
「あっ、毎日観察してらしたんですか」
「うん」
「結局、何だったんですかね」
「ゴミでしょう。あそこから生活排水が流れ出てくるでしょ。それであそこらへんは瀞になっていて、魚や鳥がエモノを待ち伏せするのに格好の場所になっているんだ。亀もいるよ。だから、なにか奇妙な生き物が生息しててもおかしくないと思っていたんだが」
「そうですか」
「結局はゴミだったんだろうな」
「はぁ」
ネッシーとかそういうのだと面白かったんだが」
「なんだか寂しいですね」
「うん寂しい」
「また面白い物体が現れるといいですね」
 そう言ってシバとその場を離れたあとも、科学じいさんは、トパーズとなおもそこにたたずんでいた。(大塚ぴっかり)