猫も羽<わ>で数えましょう(大塚ひかりの犬・猫・人・他)

♥️昔描いた漫画、毎週日曜更新予定♥️

額田先生2

 額田先生の家になぜ行くことになったのか忘れたが、とにかく正月に同級生と一緒に五人で行くことになったのだ。行くからには手土産が必要だと誰かが言い出して、額田先生の好きそうな和菓子を八個用意した。
 額田先生は独身男性で、当時、もう六十代後半くらいだった。本人がおっしゃるには、
「昔、恋した女の人が修道女になってしまって、以来、独身を貫いているのです」
とのことだった。
 学校のすぐ近くの一軒家に一人で暮らしているという。
 それで、頂いた住所メモを頼りに五人で探したが、これがなかなか辿り着けない。
「額田先生の家なんてないんじゃないの?」
と、ひとりが言い出した時、線路の下に車もろくに通れないようなトンネルが通じているのを、別のひとりが発見した。
「ここじゃない?」
 皆でトンネルをくぐってみると、くぐった先には土地が開けていて、何軒かの家が固まってあった。しかし、それ以上は道の通じていないどんつきのようになっていた。
 こんな所に家があるとは……。やはり近所に住んでいた私はなにか民話の世界に迷い込んだようで、胸が高鳴るのを感じた。 
 額田先生の家は隠れ里のような場所にひっそりと平べったく建っていた。表札はかろうじてあったが、ピンポンもなかったような気がする。
「ごめんくださーい」
 皆で声をそろえたが、なかなか先生の返事はない。五人はもともと額田先生をすごく慕っていたというわけではない。口の端に泡をためて喋る先生を「きたな〜い」という生徒もいた。が、私は長身で痩せた先生が決して嫌いではなかった。先生はふだんどんなふうに暮らているんだろう。六十代の一人暮らしってどんなんだろう。当時、十四、五歳だった私は、なんとなく先生の学校以外での顔を知りたいと思っていた。それでも皆、初めは軽い気持ちだったのだ。しかしここまで苦労して辿り着いたからには、私たちは何が何でも先生の家の中を見ずにはやまじの心になっていた。
「ぬーかーだーせんせーい」
と大きな声で何度もよばわると、しばらくして、木製の玄関の一枚戸が開いた。