夜の散歩でまた雌小型犬ラン二歳とその飼い主(皮膚科おかま先生劇似殿様顔)に会った。
どうもよほど近所に住んでいるらしい。
「シバちゃん?」
とおじさまはすぐ気づいたが、私は犬の名前を忘れてて、
「えっと、なんて名前でしたっけ」
「ラン」
そうそう。柴犬を以前、飼ってたものの、奥様が柴毛アレルギーで今回は毛のやわらかな小型犬にしたっておじさま。
「ん〜、柴はいいねぇ、やっぱり」
と、つとつと柴に近寄ってきて、ひょいとしゃがみ、
「ああ、この感触」
と、シバのちくちくした毛を撫で撫でしながら、恍惚の表情。
が、おじさまがしゃがんだ拍子に、わずかにプッとおならの音がしたのをシバの鋭い耳は聞き逃さなかった。
「ん?」
と、きらきらまっすぐな目でおじさまの顔を見上げていたが(私もちょっとブーするたびにこの目で見上げられてしまう)、それがまたおじさまには可愛かったらしく、自分の飼い犬そっちのけで、
「いいねぇ柴は」
と繰り返していた。
そんなに褒められると、なんか、とてつもなく貴重な財物を持ってる気分になるが、このシバの毛で、私はじんましんになるのだよ。おじさまの奥様と同じく。