猫も羽<わ>で数えましょう(旧「大塚ひかりのポポ手日記」since2004)

一切皆苦の人生、だましだまし生きてます。ネットでは、基本的にマイナスなこと、後ろ向きなことを書くスタンスですが、ごく稀にうっかり前向きなことを書いてしまう可能性もあります。

犬訃報

家で嫌なことがあって、まぁ、どこのうちもこういうことはあるわな、と思いつつ、逃げるようにシバと散歩。
いつも、大きな雄のテリアを連れてるおじいちゃんの、ハーモニカの音がする。
私よりシバがリードを引っ張って先にそっちに行くと、おじいさんはひとりだった。
「あれ?今日はどうしたんですか」
と聞くと、
「死んだんですよ」
虚を突かれて、黙っていると、
「癌だったの。一ヶ月前に死んで。二ヶ月介護したんだけどね」
「いくつだったんですか」
「九歳。まだいける年だったけど、癌だったから」
「そうだったんですか」
「寂しいね」
「そりゃそうですよね」
「愚痴を言う相手がいなくなったからね」
と言いつつ、
「ほら、これ、最後に噛まれたの。動かそうとしたら、凄く痛かったみたいで」
「そりゃよっぽど痛かったんですね」
「ほんと、愚痴言う相手もいなくなっちゃった。うちの子は今度はもっと小さいのを飼うって言ってるけど、私は嫌だね、寂しくて」
いつもエサをくれるので、がつがつしていたシバも神妙に座っている。
「ごめんね。朝は持ってるんだけど、夜は持ってないの。夜はあんまり犬いないからね」
 おじいさんは、テリアが死んでも、今までと同じ朝晩二回、エサだけ持ってずっと散歩し続けているのだ。
「私はもう犬はあれだね。今度はもっと小さいの、うちのが散歩するようになるだろうけど、きっとその小さいののほうが私より長く生きるだろうし」
 テリアのおじいさんはそう言って、杖をつきつき去っていった。