東原伸明さんから『土左日記虚構論ーー初期散文文学の生成と国風文化』(武蔵野書院)をご恵贈いただきました。
東原さんにはローラー・ウォーラーさんとの共著『新編 土左日記』という訳本がすでにあって、通常の『土佐』ではなく、『土左』と記す理由について詳しく書かれています。それは、
「現存する伝本がすべて『土左(ケン点)日記』という表記であり、『土佐(ケン点)日記』という表記ではないという理由によるもので」(『新編 土左日記』p13)
「「土左」という国名の表記は、『古事記』等に見られる一時代古いもので、平安時代において、紀貫之が土佐の守として赴任していた頃は、「土佐」と表記するのが一般的」(同書p14)だったけれども、一時代古い「土左」の表記を使うことで、
「意図的に、歴史地理、歴史的事実とは一定の距離をとろうとしたものと理解したい」(同書p14)
というのです。
つまり作者の紀貫之は一昔前の表記を使うことで、歴史的事実とは別の「虚構」を作ろうとした、「土左」の表記はその表れというわけで、この御本を読んだ当時、『竹取物語』の全訳をしていた私は、とても面白い! と思いました。
『竹取物語』の著者としては紀貫之説があるのですが、『竹取物語』には「士に富む山だから、富士山だ」などの、古代文学の常套である駄洒落的とも言える地名語源譚の方法が、取り入れられているからで、そこに共通するものを感じたためです(これについては拙著『ひかりナビで読む 竹取物語』に書きました)。
そんなふうに、『竹取物語』と『土左日記』の共通項を、私に発見させてくれた東原さんによる『土左日記』の虚構論。
これはぜひ読まなければ!
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