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中世の悪口

これ、町田康さんの『ギケイキ』の書評や解説でも書いたことなんですが、中世には「悪口」の罪というのがありました。

まぁ今だって名誉毀損罪というのはあるわけですが、中世の悪口というのはもっと重罪で、ダイレクトな感じ。

『「鎌倉遺文」にみる中世のことば辞典』によると、

鎌倉時代の武士の間では、悪口から殺傷に及ぶことが多くあり、そのため『御成敗式目』では、「悪口」が罪として成文化されていた」といいます。

 

 

義経記』でも、顔にいたずら書きをされた弁慶が仕返しに“散々に悪口す”というくだりがある。

それで学頭はじめ、大騒動になり、ついには書写山が炎上、堂塔五十四所三百坊が焼失するということになります。

 

文学全集なんかの訳では「さんざんに悪口を言った」とあって、“悪口”に関する説明もない。これではなんでこんな大騒ぎになったか謎なのですが、町田康の『ギケイキ』では、弁慶がメンションを飛ばしてネットで名誉毀損的なことを拡散するという設定になっている。

今でもネットがもとで自殺に追い込まれたり、店が閉店を余儀なくされるなんて、壊滅的な打撃を受けることってありますよね。

そういうとんでもない感じが、『ギケイキ』よむと、凄く納得できるように書かれている。

一事が万事で、ほんと、『ギケイキ』オススメです。

これよむと、柳田國男が『義経記』ほど、中世の人々に親しまれていた文学はないと言った意味が分かる。

 

 

 

“悪口”が招いた殺傷事件や悲劇ということでいうと、ほかにもたくさん例がある中、印象的なのは『後三年合戦絵詞』の伝える後三年の役での出来事です。

ここで源義家は、敵方の家来に「お前の父は亡き清原武則将軍の助けでやっと安倍貞任・宗任を破ったではないか。なのに恩を忘れ、その子孫を攻め立てるとは。天道の責めを受けるぞ」と言われた。

 

これを恨みに思った義家は、合戦に勝つと、この家来を捕らえ、舌を抜く。それも口を閉じる家来の歯を突き破り、舌を抜いて、木に吊し、足元には彼の主人の首を置く。

舌を抜かれ、口もきけない家来は足をばたつかせ、必死で主人の首を踏むまいとするが、力尽きて踏んでしまう。

すると義家は、

“二年の愁眉、今日すでにひらけぬ”

と、快哉を叫ぶのです。

 

 

義家は、前九年の役で、安倍貞任と歌をかわした優雅なエピソードが『古今著聞集』で語られていて、教科書などでは武士道的な感じで紹介されていますが、『古今著聞集』のエピソードは後世の作り話という説が有力です。

武士は暴力団と同じという学者も複数いて、私もまぁそんな感じかなと。

とにかく体面をハンパなく重んじる。

だから、“悪口”も、「ことばにしたことが現実になる」という古代的な信仰だけでなく、「体面をつぶされた」という怒りを招いて、おおごとになるんだと思います。

 

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ギケイキ2: 奈落への飛翔

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「鎌倉遺文」にみる中世のことば辞典

「鎌倉遺文」にみる中世のことば辞典