風邪引きで、集中力も衰え、ふと昔のことを思い出し、昔のノートを取り出したら、
好きな歌がたくさん書いてあった。
好きな歌や、ことばは高校時代くらいから集めていたのだけれど、
このノートは26歳のころ、さる人よりもらって、そこに好きな歌とことばを書き付けているのだ、
一等好きなのは、式子内親王の、
“見しことも見ぬ行く末もかりそめの枕に浮かぶまぼろしの中”
これは私にとって非常に思い出深い歌でもある。
というのも当時、好きだった人にこの歌の説明をした夜の帰り道、その人が、
「かりそめに」
と言って、私の側にある片腕を前ならえの一番前の人みたいにして、
「腕を組まない?」
と言ってきたのだ。
と、あれから三十年以上経つのに、こうしてその時のことを思い出すと、心地よい麻痺の感覚が襲ってくる。
歌を書き付けているノートは、その人にもらったものなのだ。
そのノートにはほかにも、岡倉天心の、
“十二万年夕月の夜訪ひ来ん人を松の影”
も。宇宙規模の孤独感が漂う。
また、『閑吟集』の、
“来ぬも可なり 夢の間の 露の身の 逢ふとも 宵の稲妻”
も。これは26の夏だったか、手痛い失恋をした時、好きだった歌だ(『いつの日か別の日か』のもとになった失恋。この本には『梁塵秘抄』の“君が愛せし綾ゐ笠〜〜”という歌を引用したもので、これも失恋した時、はまった歌)。
そして、26の秋、手帳をくれた人に出逢った瞬間、その失恋相手への思いが雲散霧消したことを今も昨日のことのように覚えている。
その後も恋はしたものだし、凄く人を好きになったりもしたが、あれほどまでに瞬間的に恋に落ちたことは、あとにも先にもない。
見ると、歌を書き付けたその時どきの思いが蘇ってきて、なつかしくも生々しく、息苦しい。
風邪のせいか、なにか今日は変なことを書いてしまった気がする。

新編 日本古典文学全集42・神楽歌/催馬楽/梁塵秘抄/閑吟集
- 作者: 臼田甚五郎,外村南都子,新間進一,徳江元正
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↑私の愛読している『閑吟集』はこのシリーズの旧版(日本古典文学全集)。赤い本です。