猫も羽<わ>で数えましょう(旧「大塚ひかりのポポ手日記」since2004)

一切皆苦の人生、だましだまし生きてます。ネットでは、基本的にマイナスなこと、後ろ向きなことを書くスタンスですが、ごく稀にうっかり前向きなことを書いてしまう可能性もあります。

いとあはれ

 今日、たそがれ時に川沿いを散歩していたら、前方五メートルくらいに茶色いシバくらいの大きさの柴犬っぽい犬が立ち止まっている。明らかにシバを待ってる風なので、近づくとイヤがりも吠えもしない。薄暗がりでよく分からなかったが、近くで見ると柴犬の雑種っぽい。こういう時はたぶんオスだろうと思い、
「オスですか?」
と飼い主に聞くと、毛糸の帽子をかぶった老人はくわえたばこのまま返事もしない。
(無愛想な爺さんだな)とムッとしつつ、もう一度、
「男の子ですか」と聞くと、
「はいそうですよ」
(オスとか言われたのがイヤなのかしら)そう思いつつ、
「うちはメスなんでね」
と言うと、急に、
「あっ、シバちゃん?」
と言う。
「はいシバです」
 答えながら、よく見ると無愛想な顔の時はよくわからなかったが、笑った顔が見覚えがある。挨拶をしたこともあるが、犬の名前は忘れてしまった。しかしシバという名は覚えやすいのか、お爺さんは覚えていた。
「いつも前通りかかってるんですよー、くーんくーんとか言っちゃって可愛くってねぇシバちゃんは」
と、さっきとはまるで人が変わったよう。
「ゲンちゃんにはね、いつも吠えられちゃうんだけどね」
「オスどうしはなかなか、とくに柴犬のオスは仲良くなれませんよ」
などと会話をして、ばいばーいとその場を離れた。シバはあとも振り向かずにひたすら前進していたが、ふと後ろをみると、さっきのオス犬は立ち止まってシバのほうを黙って見ている。また振り返っても、まだ立ち止まって見ている。
 もうそのあとは日もすっかり暮れ果てたので、振り返らなかったが、犬とお爺さんはまだずっとそこにいるような感じがした。