聘珍樓とかそんなたぐいの中華料理屋の個室で、母と私と弟とあともうひとり誰かとで円卓を囲んでいた。
午後八時。
個室なのに、ほかの円卓が透けて見え、その円卓のあいだを従業員が忙しく動き回っている。
私はもの凄く腹が減っていて、早く注文したいのだが、従業員の忙しさを気遣うらしき母が、
「まだいい、いい」
とばかり言うので、我慢していたのだ。
席をたって戻ってきてみると、個室の中は暗くなっていて、ふとんが持ち込まれ、母は寝ている。
時計を見ると夜の九時近い。
「もう九時じゃない。注文はしたの?」
と母を問い詰めると、母の動きで、まだしていないことが分かる。
しかも、母はもごもご何か言ってるようなので、耳を澄ますと、
「お腹がすいた」
と言っているようだ。
冗談じゃない。あんたがまだ頼むなと言ったから注文しないでいたのに、店も真っ暗だし、あんたは寝てるし、あげくの果ては「お腹がすいた」だと。ふざけんな。
と思って、うつぶせに寝ていた母の背中をぶった。
まるでふとんのような手応えなので、首を絞めると、母は乳飲み子のように小さくて、こけしのように頭と、三頭身程度のずんどうな体がついているだけで、それもふにゃふにゃと手応えがない。
もう一度首を絞めても同じように、母はてるてる坊主のような格好で転がっている。
怖い。
と思ったら、目が覚めた。
きっかり夜中の二時だった。
『源氏物語』第一巻、二刷になりました。