猫も羽<わ>で数えましょう(旧「大塚ひかりのポポ手日記」since2004)

一切皆苦の人生、だましだまし生きてます。ネットでは、基本的にマイナスなこと、後ろ向きなことを書くスタンスですが、ごく稀にうっかり前向きなことを書いてしまう可能性もあります。

聘珍樓とかそんなたぐいの中華料理屋の個室で、母と私と弟とあともうひとり誰かとで円卓を囲んでいた。
午後八時。
個室なのに、ほかの円卓が透けて見え、その円卓のあいだを従業員が忙しく動き回っている。
私はもの凄く腹が減っていて、早く注文したいのだが、従業員の忙しさを気遣うらしき母が、
「まだいい、いい」
とばかり言うので、我慢していたのだ。
 席をたって戻ってきてみると、個室の中は暗くなっていて、ふとんが持ち込まれ、母は寝ている。
時計を見ると夜の九時近い。
「もう九時じゃない。注文はしたの?」
と母を問い詰めると、母の動きで、まだしていないことが分かる。
 しかも、母はもごもご何か言ってるようなので、耳を澄ますと、
「お腹がすいた」
と言っているようだ。
 冗談じゃない。あんたがまだ頼むなと言ったから注文しないでいたのに、店も真っ暗だし、あんたは寝てるし、あげくの果ては「お腹がすいた」だと。ふざけんな。
 と思って、うつぶせに寝ていた母の背中をぶった。
 まるでふとんのような手応えなので、首を絞めると、母は乳飲み子のように小さくて、こけしのように頭と、三頭身程度のずんどうな体がついているだけで、それもふにゃふにゃと手応えがない。
 もう一度首を絞めても同じように、母はてるてる坊主のような格好で転がっている。
 怖い。
 と思ったら、目が覚めた。
 きっかり夜中の二時だった。





源氏物語』第一巻、二刷になりました。