猫も羽<わ>で数えましょう(旧「大塚ひかりのポポ手日記」since2004)

一切皆苦の人生、だましだまし生きてます。ネットでは、基本的にマイナスなこと、後ろ向きなことを書くスタンスですが、ごく稀にうっかり前向きなことを書いてしまう可能性もあります。

「諸仏不動智、心とどまらぬを不動という、ものに心とどまれば、心動揺す」
ドラマの「柳生十兵衛」で山口崇が沢庵禅師の言葉として言ってた。
そのまんま『不動智神妙録』からの引用かと思って『神妙録』を見たら、違った。
“諸仏不動智と申す事、不動とは、うごかずといふ文字にて候。智は智慧の智にて候。不動と申し候ても、石か木かのやうに、無性なる義理にてはなく候。向ふへも、左へも、右へも、十方八方へ、心は動きたきやうに動きながら、卒度もとどまらぬ心を不動智と申し候
〜物一目見て、その心をとどめぬを不動と申し候。なぜなれば物に心がとどまり候へば、いろいろの分別が胸に候間、胸のうちにいろいろに動き候”
これが『神妙録』の原文。
しかしこの山口崇のセリフのほうがかっこよく、簡潔で要領をとらえている。
このドラマのセリフがいかにしっかり作られているか、思い知った。





昨日『源氏物語』をやってたら、ピンポーンと。
「ゲンのとこの●●です」
という。
 ゲンちゃんは、シバの犬友達である。その飼い主さんだった。
 なにかシバが粗相でも……とあわてて外に出ると、ゲンママともうひとり、同じくらいのお年の女の方がいる。
「ねー,実はそこの区民センターで『源氏物語』の講座をしていただきたくて」
とゲンママ。
「えっ」
「『源氏物語』の全訳なさっているとうかがって、『源氏物語』はファンも多いし、ぜひにと思って」
と連れの方。
「こないだは死体は語るの著者の上野さんがお話しなさって、とても面白かったわ」
とゲンママ。
「それはあの方はテレビにも出られるほどですから、お話はお上手でしょう。私は話がダメだから書いてるようなもんなんですよ。それに子供もいるし、すごいあがり症で、こういうお話はみんなお断りしているんですよ」
「そんなことおっしゃらずに。奥さん。地域のためよ」
とゲンママ。
「そうよ。お礼も微々たるもので、ほんとにご近所の方にしかお願いできないし、みんな素人だから」
「いや、素人だと、かえって大変かも……」
「わたし、来年十月まで当番なので、ぜひ、地域のためだと思って、お願いしたいわ」
「地域への貢献よ」
「でも、今年いっぱいはほんとに『源氏物語』で忙しくて、無理なんです」
「じゃあ来年ね。一月早々は悪いから二月にでも」
「いや、以前、講演して熱が出たので」
「大丈夫よ。年の功と馴れよ。40人くらい、みんな私たちみたいなお婆さんだから」
「一回でもいいけれど、『源氏物語』なら四回くらい、週に一回を一月なさるというくらいがいいんじゃない?」
と連れの奥様。
私「でも、ほんとにこんなですから、まぁこういうお話をうかがったというだけで、お役には立てないような」
ゲンママ「奥様、大塚さんのお電話番号うかがったほうがいいんじゃない?」
連れ「そうね。大塚さんっていうのね」
ゲンママ「ペンネームなのよね」
私「旧姓の本名なんです」
連れ「はい。じゃあ、このへんに書いてね」
と、紙を差し出されたので、言われるままに番号を書く。



かかってくるのだろうか。
私的には断ったと思っているが、ゲンちゃんのママみたいな明るくて愉快な「顔見知り」の人ばかりなら楽しいかもという思いもある。
以前「20万円」という講師料に釣られて図書館で講演したとき、熱を出して一週間使い物にならなかった経験をして以来、講演は断ることにしたし、たとえ20万以上もらってもこんな口べたな私がその日会うのが初めての知らない人に講演を聞いてもらうより、本を読んでもらったほうがよほどいいと思っているから、引き受けない。
が、いつも顔を合わせているご近所の人相手なら、これからもここで暮らしていくのだし、例外だという気持ちもあるだけに。